恋文

 


沢山の我儘を言ってしまいましたね、御免なさい。

あの頃は、私だけがあなたを救えると、正しい方向へ導いてゆけると、そう思っていました。あなただけが世界の全てだったのです。なに一つ信じられないと固く閉ざしてきた瞳がようやく光を捉えたと思えば、どうしてでしょう。どうして私はこうも、物事の本質を見つめることが出来ないのでしょうね、本当に馬鹿で、泣きたくなってしまう。こんなこと、今更話したところで貴方の心には1ミリ足りとも響かないこと、なんのことかと笑って誤魔化すこと、知っています。あ、ほら。また私は、あなたのことを、なんでも知ったような顔をして話をしてしまう。本当はなにも知らないのに。だってあなたが私に教えてくれたことは指で数えられるほど。誰にも知ってもらえなくたって、何も知らなくたって、心の中で一つ一つ、目の前のあなたの声や仕草をなぞれれば、それで幸せだと思えていたのはもうずっと昔のことだけれど、欲張りになってしまった醜い私を許して。最後くらいは独り占めしたいから、ここに記すのはやめておきます。


ねえ、愛していたのは誰なのでしょうね。私は自分のことを大切に出来ていた?あなたはあなたの矜持を守れていたのかしら?今となってはもう分からないけれど、ただ一つ、今のあなたがもう私を必要としていないこと、それだけははっきり分かります。でもね、あなたの人生に、私を完全に忘れ去ってしまう日は来ないと、そう思っているのですよ。これは全くもって、只の勘なのですけれど。私の容姿、私との思い出、私に抱いた感情なんかは、きっとすぐに忘れてしまうことでしょう。私が好きだと言ったケーキの種類やお気に入りのワンピースのブランド(そう、あの花柄のやつ)、眠る前に聴いていた曲のことは、もう忘れてしまっているかもしれませんね。それでも、きっと、私という存在のことを、あなたは忘れることが出来ない。人の記憶から完全に消えてしまうということは、案外難しいものなのですから。

 

もうすっかり夜になってしまいました。あなたが居ない時も、私が居ない時も、春には小さく可憐な白い花が、あの庭いっぱいに咲くことでしょう。夏は茉莉花のかおる風、秋は星月夜、そうして冬はひとり温かいお茶を淹れて、眠りにつくと、また、春が来る。幸せでいようと、不幸せでいようと、季節は巡って来るのですものね。人生なんて、結局はそれくらいのこと。私たち、いや、私とあなたが出会った日から、お互い少しは成長できたかしら。


ねえ、あなたは今、幸せですか?


私は今、とても幸せです。さようなら。

 

 

 

Archive 2017-01-07

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